DATE 2009. 2.18〜2009. 5.31 FF4TA企画 NO .
ぼくは、見ていました。
『家族を守るには……これしか…これしかなかったんだ……』
自分に言い聞かせるように絞り出される声を、遠くに感じながら。
どうすればいいのかわからずに、ただ、見ていました。
すぐ近くに御館様がおられました。
その後ろに控えていた彼らは――今思えばたぶん、掃討作戦に加わっていた面々。
城に帰還が叶った後も周辺の魔物退治に出向いていた、数少ない生き残りの忍達だったんでしょう。
時々御館様がひとりで行ってしまわれる事もあったんだとか。
彼らは口々に何かをまくし立てていたけれど、小さかったぼくは、よく覚えていません。
でもひとり押し黙って、まっすぐ相手を見つめる御館様の眼差しは、覚えています。
『本当に』
御館様がそう大きくはない声で、一言。
すると、彼らは一瞬で静まりました。
『……本当に、それしかなかったのか?』
御館様にそう問われて、蒼白だったあの人の顔に少しだけ朱が差して。
『あなたは……あなたはあの日、火の中にいらっしゃらなかったでしょう!!』
怒鳴り声があがったけれど、御館様が片手を挙げるだけでまた静まって。
――ぼくは御館様を、食い入るように見ていました。
『そしてエブラーナから離れてしまわれた――』
『――そして俺はその事を、ただの一度も悔いた事はない』
詰る言葉と正面から向き合う御館様に怯んだのか、あの人は地面に目を落としました。
『何故なら、それが巡り巡って、必ずエブラーナの民を救う事になると信じていたからだ』
御館様が一歩、あの人に近づきました。
『お前も……悔いてはいないのだろう?』
『それが巡り巡って家族を救う事になると、信じていたのだろう?』
『う…あぁ……っ』
たった一日で全てを失って、商売を続ける術もなく、御館様のような「強さ」もない。
洞窟での暮らしに何とか繋ぐ事の出来た人達と、あの人は違う道を歩んだ。
結果、今日まで生きてこられたのだとしても。
巡り巡って今日、手を汚してでも守ってきたものを、追い詰める事になった。
『来るな、近づくなぁっ!!』
そう知らしめられても、立ち上がってあの人は御館様に刃を向けました。
この国で一番やってはいけない事。小さかったぼくにすら、わかる事。
巡り巡って家族を救う事になる――わけがない。
それでもあの人は闇雲に刀を振るい、
『――っ、御館様!!!』
御館様は避けませんでした。
張り詰めた、少し高い声。
彼らの声の中では目立つはずなのに、この時初めてぼくの耳朶を打った声。
たぶんあれが、今ぼくの隣にいるイザヨイだったんだと思います。
「――やはり、まだどこかであの娘を疑っているのだろうな」
そう自嘲気味に呟く声を聞きながら、ぼくはだんだんと小さくなる人影を目で追いかけていた。
「恐れているのやもしれん」
御館様と、小さな後ろ姿がふたつ。
それから西の塔の窓に目を向けると――あぁ、やっぱり。
「しかし今や我らの姫」
「御館様がエブラーナの害となる選択をなさるはずがない」
「あのお方は、姫を信じておられる」
『……直接見ているお前達には、すぐに受け容れられる事ではないと思う』
『だが俺は――』
御館様の眼の傷を見る度に、ぼくは思い出す。
その場にいた者以外は、御館様を傷つけた本当の理由を知らない。
リディア様にさえ語ろうとされなかった御館様のご心中など、ぼくにはわかるわけがないけれど。
御館様を仰ぎ、あの傷を目にする度に、ぼくはこのお方についていこうと決めた己への誓いを思い起こし、気持ちを新たにする。
そうやって、ここまできた。
旅の途中、セシル様達に気づかれる事なくジェラルダイン家の私財でエブラーナの宝を回収していたという御館様は、それをまた惜し気もなく、今度は正式に売却された。
「盗みを働こうとした」男は、そのお金でミスト村への支援をするべく駆け回る事になった。
我が国の宝を売るなど――そう言って眉を顰める者もいたけれど。
「ぼくは、御館様を信じます」
あのお金は、巡り巡っていつか、再びエブラーナの宝となる。
例えば、他国とあまり交流をもってこなかった我が国が、苦境の中でも他者を助ける事が出来た事実。
それから――新しい若様。
「そうだな」
「言われるまでもない」
姫への恐れは、まだ拭えないかもしれない。
けれどぼく達は、何時如何なる時も、御館様を信じて歩む。
今日もエブラーナには、偉大な太陽の光が降り注いでいます。
そして、これからも。
≪あとがき≫
あの傷の理由を捏造\(^O^)/
詳しく描写するのはやめました。エブラーナ陥落を書いてみる日が来たら、その時にでももう少し。
とりあえず、逆らう者から得るものもあるかな、という事です……たぶん。
御一行の信者ばかりじゃ駄目だと思うのです。
そして捧げものへと続く!
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